王族しか使えなかった由緒正しい布『ソンケット』。
金糸や銀糸をたっぷりと使い、刺繍のように浮き出た模様がとっても美しい!
ソンケットって?
パタンパタンと、どこからともなく聞こえてくる軽快なリズム。 楽しいおしゃべりや笑い声に混ざり、リズムを打っているようにも聞こえてきます。 その音をたどって行くと、家の軒先で、女性達がはたおりをする姿を目にすることもチラホラ。 色とりどりの糸を使っって織られている布は、ソンケットと呼ばれる浮織物。刺繍のように浮き出た模様が美しく、とくに金糸や銀糸をたっぷりと使った布は、王族や芸術家に愛された、とても手のこんだ布です。
バリ島東部の最大都市、スマラプラ(Semarapura)から15kmほど北東にあるシドゥメン村(Desa Sidemen)は、バリ島の聖なる山と呼ばれるアグン山(Gunung Agung)の裾野にあります。
晴れた日には雄大なアグン山。
その裾野には、のどかな田園風景が広がる、とっても心地の良い場所。
手つかずの自然が残り、現在ではエコツアーで訪れるスポットとして有名です。
バリ島に魅了され、バリ島の美しさや芸能、芸術を世界に広めた、ドイツ人芸術家の ウォルター シュピース(Walter Spies)も、このエリアに滞在していたと言われています。
芸術家である彼は、シドメン村周辺の美しい田園風景や伝統舞踊の絵を描き、「楽園バリ」を世界に広めた人なんですよ~。
のんびりと牛をつれて歩く農夫のすがた、水田に映る夕陽など、シュピースの感動が伝わってくるような、素晴らしい風景が、ここにあります。
この地方で織られる織物は、ソンケット(Songket)や紋織と呼ばれる浮き織物。
とくに、シドゥメン村のタボラ地区(Banjar Tabola)には、ソンケット職人が多く、工房が集まるエリアでもあるんですよ。
いっけん、刺繍された布のように感じますが、機織りの際に金糸や銀糸、
鮮やかな色糸を織り込んでいるんです。
ブルーの布にゴールドやピンク、オレンジ、グリーンなどなど。
バリ人の色彩感覚はとても斬新で、鮮やかな色調は、見ているだけでも楽しくなっちゃう♪
特に金糸や銀糸を使ったものは、とっても高価で、16世紀の王朝時代、この華やかな布は王族のみが身に付けられる特別な布でした。
はたおりも王族の女性だけに許されたものでしたが、現在では、誰にでも出来るようになりました。
王宮から周辺の村に技術が伝わり、カランガッサム(Karangasem)、クルンクン(Klungkung)のほかに、バリ島北部や西部の王朝が栄えた場所の周辺には、ソンケットを織る工房が点在しています。
現在でもソンケットは特別な時に身につける布と考えられていて、結婚式や儀式の時に使われているんですよ
バリ島以外でも、
お隣の島のロンボク島(Lombok)
フローレス島(Floees)
スンバ島(Sumba)
などの他に、
マレーシア(Malaysia)
ブルネイ(Brunei)
などでも織られている、とても人気のある織物です。
生産地によって、イスラムや中国文化の影響を受けた柄もあり、見比べてみるのも面白いですよ~。
シドメン村で織られているソンケットには、孔雀や、ナーガ(Naga)と呼ばれる龍のモチーフ、コンピョン(Konpyong)という、昔シドメン村に咲いていたお花など。
バリの文化や自然が、色とりどりの糸を使って、美しく表現されています。
ソンケット以外にも、バリ島にはたくさんの織物があります。
イカット(Ikat)と呼ばれる織物は、日本では「絣(かすり)」と呼ばれ、横糸の1本1本を、図柄に合わせて染め、織り上げていくかすり織。
インドネシア各地で織られているイカットは、地方により図柄に特色があり、
呼び名もさまざで、バリ島ではウンデッ(ク)(Endek)と言います。
同じイカットでも、ダブルイカット(Double ikat)と呼ばれる経緯絣(たてよこがすり)もあります。
イカットは横糸または経糸のみ図柄に染めますが、ダブルイカットは両方の布を染めて織る、とても高度な技術が必要な織物。
染めた経糸と横糸の柄が合うように、点と点を合わせていく、とても緻密な作業。
この織り方は世界でもバリ島、インド、日本の3か所のみで生産されていて、
バリ島ではグリンシン(Gringsing)、
インドではパトラ(Patola)、
日本では、結城紬、備前絣、芭蕉布、大島紬と呼ばれています。
織り方によって布の雰囲気もかなり変わってきますよね~。
イカットは壁にかけたり、テーブルセンターにもいいかな?
グリンシンは、やっぱり一番目につく玄関の壁に飾りたい!
ソンケットは、クッションカバーやベットライナーで、お部屋のアクセントに使いたいな。
着物の帯にしても素敵かも!
ほかにどんな使い方ができるかな?
な~んて考えるのが楽しくてたまらないです!
ちなみに!
バリ島南部にある超高級リゾート、ブルガリホテルのインテリアには、ジャワ産の素敵なソンケットが使われているというウワサ。
インテリアの参考にしたいな♪
インドネシアの織物は質、量共に世界最大の産地なんですよ~!
布好きさんには夢のような場所っていえるかもっ♪
■織物ってどうやって作られるの?
織り物は、はたおり機を使って、パタンパタンと織っていくだけのように感じますが、実は、糸の準備から織り始めるまでが、とても根気と時間のかかる作業です。
まずは経糸(たていと)を整える整経作業、ンガニニン(Nganyinin)から。
経糸を織りたい布の横幅に合わせて整えていきます。 ソンケットの場合は、通常52~53cmほどの幅で作りますが、この幅では約14mの糸を使います。
木の棒に8の字に巻きつけていくと、糸が交差し、織物のベースとなる上糸と下糸の出来上がり!
糸の並びが乱れないよう、織物の作業の中でもとても大切な部分です。
一度織り始めてしまうと、経糸を変更するのはとても大変なので、どの様な布にしたいか計画を立てて、準備しなければいけません。
その作業が終わると、巻き筬(おさ)通し又は荒筬通しと呼ばれる作業に移ります。
ニュンティック(Nyuntik)とも呼ばれるこの作業は、竹で出来たクシの様なオサに、下糸、上糸をセットにして一つ一つ通していく、とても根気のいる作業。
この作業で経糸の密度と織り巾を決定します。
精密な作業に目がシバシバしてしまいそうです~。
そして、千切り(ちきり)巻きの作業、ニャサ(Nyasa)へ。
経糸をまっすぐ伸ばし、糸に吊りやゆがみが出来ないよう均等に巻いていきます。
簡単に見える作業ですが、均等に巻き取れないと布に粗が出てくるので、気の抜けない作業が続きます。
ここからは浮織り独特の工程です。
綺麗に整えられた布に、模様を織るための印を作ります。
ビニール紐や竹棒を使って経糸にモチーフを作り、この印を頼りに綜絖(そうこう)と呼ばれる、細い竹に白い糸を通した道具を作ります。
この竹の棒を引き上げると、模様を作りたい部分の縦糸が引っ張り上げられ、その部分に色糸を織り込んでいくという仕組み。
モチーフが複雑になると、この竹の棒が1000本以上になる事もあるんです。
どの棒を持ち上げたらいいか分からなくなってしまいそう。
一見簡単そうに見えますが、計算しながら織っていくんですね。
難なくこなしてしまうところが凄い!
ここまでの作業には早くても1週間、糸を染める作業にはお天気も関わってくるので、それ以上の時間が掛かってしまいます。
こんなに大変な下準備があるとは知りませんでした。
ここまできて、やっとはたおりへ!
はたおりは下糸と上糸を交互に上げ、その隙間に横糸を通して織っていきます。
先ほど作った竹棒の綜絖を、モチーフにあわせて引っ張り上げ、そこに色糸を通します。
背中に当てた棒で、体全体を使って経糸を引っ張ります。
この引っ張りが弱いと、歪んだ布になってしまうのだとか。
見かけ以上に重労働で、腰にかなりの負担がかかる作業なんですよ!
トンットンッと横糸を織り込む力具合も均一でなくてはならず、織り手によっても出来上 がり具合が違ってきます。
織り上がった布を見てみると、途中から急いで織ったな?
ここまで織って、しばらく織るのをやめていたな?
なーんていうのも分かってしまうんで すって(笑)
はたおりの期間は早くて3週間、細かい模様なものは2か月~3か月もかかってしまいます。
糸の準備から考えると、完成まで1か月で出来るものから、半年近くかかる大作まで。
丹精込めて一織り一織り作られるものなので、同じ柄でも作り手によって、個性のある 味わい深いものになるんですね。
とても長い時間をかけて作られた布。
お気に入りの1枚を見つけて、大切に使いたいなと思いました。
■ ソンケット 工場見学で役立つ単語~インドネシア語&バリ語
ソンケットの製作工程を見たいのですが。
Saya mau lihat proses penenunan Songket.
サヤ マウ リハッ プロセス プネヌナン ソンケット
はたおり体験は出来ますか?
Saya boleh coba penenunan?
サヤ ボレ チョバ プネヌナン?
これはいくらですか?
Ini berapa harganya?
イニ ブラパ ハルガニャ?
シルクで織られたソンケットありますか?
Ada yang songket sutra?
アダ ヤン ソンケット スートラ?
アンティークの布を探しています。
Saya cari kain kuno.
サヤ チャリ カイン クノー
今回見学させていただいた工房は、シドゥメン村でソンケットを織っている、松原亜希子さんという日本人の方の工房。
松原さんは、シドゥメン村に嫁がれ、お義母さまからはたおりを習ったそうです。
色彩華やかなソンケットが多い中、松原さんの作る作品は、日本人独特の色彩感覚で作られた、シックで美しいソンケット。
今流行のモチーフではなく、昔ながらのモチーフを作り、伝統を守っています。
パキッとした華やかな色合いを好むバリ人には、この淡い色合いのものは模様が見えにく く感じるようで、職人さんんが布を織るときに、出来上がりが想像できずに不安になって しまうんですって。
でも、出来上がった布はとても上品で素晴らしく、日本の生活でも 落ち着く、シックな色合い。
世界各国に素敵な布はたくさんありますが、バリ雑貨として買ってきても、家のインテリアにはなじめず、タンスのこやしになってたりしませんか?
松原さんの作るソンケットは、華やかでありながらも上品さもあり、和風の家や洋風の家に飾ってもしっくりときますね。
バリ島でも職人離れが進み、伝統工芸が廃れてきています。
ですが外国人のセンスが入り、新しい形で生まれ変わってきています。
トラディショナルでありながら、新しい風を吹き込んだステキなソンケット。
ますますソンケットが好きになってしまいました!
■ ソンケット 工場見学で役立つインドネシア語&バリ語
ソンケット
songket
はたおり
penenunan
プネヌナン
模様
pola
ポラ
色
warna
ワルナ
サイズ
ukuran
ウクラン
生地
kain
カイン
シルク生地
kain sutra
カイン スートラ
アンティーク生地
kain kuno
カイン クノー
それも、出来上がった作品を持ち帰れるのは嬉しい!
バリ島の思い出として、素敵なお土産の出来上がり~☆
チャレンジしてみるのも良いかも!
また、タボラ地区には沢山の工房があり、ソンケットの工房とショップが併設された場所 もあるので、気軽に見学することができます。
シドメン村に入ってすぐにある、プランギ(Pelangi)というバリ雑貨ショップが有名で、観光の際に立ちよってショッピングもOK。
シドメン産のステキなソンケットが、壁いっぱいに飾られていましたよっ。
ライスビューが広がる、とっても景色の良い場所なので、ドライブの休憩がてらにフラリっとたち寄って、イロイロと見ても楽しいかも~♪
あと、おススメなのは。
スマラプラにあるクルンクン市場(Pasar Klungkung)です。
スマラプラ王宮跡のクルタゴサ(Kertha Gosa)の目の前にから市場に入っていくと、沢山のソンケットやイカット、バティックやグリンシンなど、見渡すかぎり布だらけ!
イカット、ソンケットを探すなら、まずはここで!
っと、いっていいほどの品揃え。
もちろん、バティックやグリンシンも売っていますよ。
機械織りの安いものから、手織りの高級な布までが勢ぞろい。
ソンケットの相場はだいたい、約5,000円から3万円程度でしょうか?
金糸がふんだんに使われたものや、アンティークのものは、ウン万円という値段がつくと言う、大変高価な布。
インドネシアはどんどん物価が上がっているので、これからもっと値段が上がってしまうんじゃないかな~!?
色々と見て回っていると、店のおばちゃんが
「チャリアパー?」
(何探しているの?)
と聞いてくるので、
『こんなのが欲しい!』
と言ってみてくださいね。
たくさんの布の中から、きっと素敵なソンケットを見つけてくれますよ~♪
この布はどうやって使おうかな~?
自分オリジナルのバリ雑貨を作っちゃおう♪
たくさんの布に囲まれて、創作意欲が湧いてきちゃった『ソンケットの旅』でした!
※このページで表示している情報は、2013/2月現在です。
ソンケット工房のアクセス
■ソンケット工房
Talisman(松原さんの工房)
住所:
Buu, Banjar Dinas Tebola, Desa Sidemen, Karangasem(見学等、要予約)
サヌール方面からは海沿いのバイパス(Ida bagusmantra bypass)を北上。
ウブドエリアからはクルンクンの町中を通り過ぎ、シドメン方面へ。
シドメン村市場の三叉路を左に曲がり、800m程直進すると、右側に小さな看板があります。
そこを右折し、右に入る小さな小道沿いにあります。
オールドソンケットって何?
オールドソンケットとは、100年以上前に作られたアンティークの布です。
素材はシルクのほかにナナスカイン(Nanas kain)という、パイナップルの葉の繊維を使った物もあります。
麻のような、パリッとした肌ざわりですが、絹のような光沢を持った素晴らしい布。
現在では、化学染料や合成の糸が安価に出回り、天然素材を使う職人さんが減ってきています。
また、アンティークで出回っているほとんどの布は完成後、アンティーク調に再染色されているモノもあるので、良く確かめて。